一口に「車」といっても、いろいろあります。車としてイメージされる筆頭の自動車はもとより、電車や蒸気機関車(汽車)、馬車、バスとして定着している乗り合い自動車、二輪である自転車、バイク、子供用の三輪車、さらにはSF映画に登場する空中浮遊車も車輪は不要で付いていませんが、車というカテゴリーに入ることになります。乗り物、輸送機器や手段を意味する英語のVehicleが一番正確な車の観念かもしれません。
車をテーマにした映画となると、ほとんど何でもありの、とてつもなく大きな括りになりますが、そこはご勘弁ください。
ここでは「車」がタイトルに含まれた映画7選、こんな映画もあるのに選ばれていない、といった批判覚悟で、独断と偏見で選んでみました。各作品をじっくりと味わって、興味を持った方は機会を作って、ぜひ本編をご覧ください。再見となれば新たな発見も必ずあるはずです。
1. 映画の中の車に期待するのは、やっぱりアクション?
映画に登場する車、自動車といえば、アクションのジャンルが圧倒的です。特に犯罪映画、スパイ映画などでは、犯人がいて逃走する時にクルマが使われるのは定番でしょう。逃走イコール車というイメージもあり、多くの映画で逃走する側と追う側のカーチェイスが売り物になっていて、人々が興味をそそられて、では見てみようか、ということになるのでしょう。
アクションジャンルでない「車」が入った映画のタイトルに込められた意味
ただし、タイトルに車が含まれているからといって、アクションものだろう、逃走映画だろう、とは想像できない場合もあります。電車とか夜汽車、三輪車がタイトルに使われている場合です。むしろ、どんな作品なのだろう、どう電車や夜汽車が作品に絡んでいるのだろう、という疑問を持ちつつ、見ることになるはずです。
作品によっては見終わっても、なぜこのタイトルだったのか、と関連性が分からない映画に出合ったりもします。タイトルの「○○車」の意味を考えさせられる作品を中心に「車」がタイトルに含まれた映画を紹介していきます。
2. 人間の内面を映像詩的に描く日本映画「青い車」
まず紹介するのは、人間の内面の複雑な思いが、色やモノ(青い車、赤い花束など)を介して映像詩的に描かれている日本の映画「青い車」です。物語は、子供の時に事故に遭って負った目の傷を隠すためにサングラスをしているリチオ(ARATA)と、リチオの恋人佐伯アケミ(麻生久美子)の妹、このみ(宮崎あおい)を中心に展開します。
主人公は社会に心を閉ざし、孤独や絶望を感じているリチオ
昼はレコード店で働き、夜はDJをしているリチオは青い車を持っています。彼は事故の影響なのか、世間や社会に対して心を開けないため、言いようのない孤独感、絶望感とともに生きています。街で偶然会った、このみに誘われるままに食事をした後、リチオのアパートで、高校生のこのみと関係を持ちます。
このみは大学受験という現実を前に、説明しがたい焦燥や不安から逃れようと、心を開かず虚無的なリチオに漠然とした興味と同類のような親近感を感じて関係を持ったのです。多くの赤い花で抱えきれないほど大きな花束を持ったこのみは赤いドレスを着て、リチオと青い車に乗って、海辺のドライブへ出かけるのでした。
青い車の音楽は曽我部恵一、映像に溶けこむメロディーが話題に
全編を通してうかがえるのは、質感のある映像に加え、演技陣の表情やしぐさなどから感じる雰囲気が良い映画、という評価への同感かもしれません。そんな映画「青い車」は、奥原浩志監督により制作され2004年11月に公開されました。音楽担当がインディーズで知られた曽我部恵一で映画音楽初挑戦、切ない歌声やメロディーが映像に溶け込んでいる、と話題になりました。
青い車の原作は20ページほどの短編漫画
原作となった「青い車」は20ページほどの短編漫画で、作者は、よしもとよしとも。タイトルの青い車は、スピッツの曲から拝借したとのことです。原作漫画の青い車に登場する車は、色が特定されておらず、タイトル通りの青い車ではなく、白っぽい色とされています。
しかし、映画ではしっかり青いボディーカラーの車が使われており、車種はカローラ。クルマのシェイプやヘッドライトの形から、80年代に生産された青い5代目カローラのようです。原作同様、映画のタイトルにもなっている青い車は、リチオが夜間に運転するシーンのほか、交通事故死した恋人アケミの妹、このみを乗せて高速道路を走るシーンなどにも登場し、映像詩の一端を担いました。
3. 話題になったスマホ小説「通学シリーズ」の映画2本
次は象徴や暗喩も含め、通学シリーズとして若い年齢層向けの心の機微などを描いて好評だった作品を紹介します。スマホを中心とした投稿コミュニティサイト (UGC)の「E☆エブリスタ」に連載中で、女子中高生を中心に絶大な人気を博した小説が原作という「通学シリーズ」の映画2本(通学電車、通学途中)です。原作は、みゆでコミック化もされているという人気ぶり。
メインキャストは千葉雄大、松井愛莉、中川大志、森川葵の4人
映画版は、2015年11月に「通学シリーズ 通学電車」「通学シリーズ 通学途中」として連続公開され、大きな話題となりました。メインキャストは千葉雄大、松井愛莉、中川大志、森川葵の4人が両作品に共通していますが、ストーリーは独立した作品となっています。
高校2年生の2組の男女が主人公の物語
それぞれのストーリーを簡単に紹介します。まず「通学電車」です。高校2年生のゆうな(松井愛莉)は電車通学の車内で毎日見る男子生徒(ハル=千葉雄大)に片思い中。名前も分からない男子だけど、今は見ているだけで幸せ、という状態。
そんな、ゆうなが朝目覚めると、隣にハルが寝ていたのです! 驚くゆうなですが、彼女以外には見えないうえに、ハルは部屋から出られません。実は、ゆうなとハルの、それぞれの過去に関係があったのです。
恋をして失恋して成長していく高校生たちの物語
次の「通学途中」の話は、名門高校に通い美術部に所属する高校2年生のユキ(森川葵)が主人公の一人です。性格が内気で、コンビニでバイトする男子生徒との恋愛を夢見ますが、毎日コンビニに通って顔を見るのが精一杯。しかし、男子生徒には既に彼女がいてユキは失恋してしまいます。
そんなユキは、同じ美術部に所属するコウ(中川大志)が想いを寄せていることを知らずに偶然コウの自宅を訪問、コウは間もなく転校することを知らされます。ところがコウは、ある事件で右手を負傷し、筆を握れなくなってしまいます。そのまま転校していくコウ。ユキはどうするのか。
映画が気に入ったら、ファンとしてロケ地を訪ねるのも一興
上記2作品、キャストの演技だけでなく、ロケ地も気になりませんか。電車がタイトルに入っている通学電車のロケ地は、多摩都市モノレール線であることは映画から分かります。ロケ地となった学校や病院、カフェなどは茨城県小美玉市と筑西市に実在する建物などが使われています。気になる方は探して訪ねてみるのも一興でしょう。
4. 何度見ても圧巻の砲撃シーンに圧倒される戦車映画T34
続いて紹介するのは、戦車が登場する映画です。戦車映画は、第二次大戦後の1960~70年代に、米英を中心に数多く制作されました。戦車だけでなく、軍用機、軍艦が多く登場する戦争映画が量産されたのは、朝鮮戦争、ベトナム戦争とアメリカが体験した戦争が続いたことにも一因があるようです。
そんな戦争映画のうち、戦車が登場する映画に限っても、邦題にズバリ戦車と入っていてアカデミー賞を受けた「パットン大戦車軍団(原題:Patton、1970年、以下同)」、クリント・イーストウッド主演で、M4中戦車シャーマン3両率いるドナルド・サザーランドが愉快な「戦略大作戦(Kelly’s Heroes、1970年)」があります。
さらに近年は、映画タイトルにもなった愛称を持つシャーマン戦車が出てくる、ブラッド・ピッド主演の「フューリー(FURY、2014年)」も思い浮かびます。邦画のアニメですが、「ガールズ&パンツァー 劇場版(2015年)」というのもありました。
「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」は数々の記録を塗り替えたロシア映画
最近話題となった戦車映画では、戦車名をタイトルにしたロシア映画「T-34 レジェンド・オブ・ウォー(T34、2019年)」が白眉でしょう。T34とは第二次世界大戦時に使われたソ連軍の戦車で、試作車の生産年が1934年だったことから命名されました。T34は分厚い装甲が有名で、対戦したドイツ軍は通常の対戦車砲では歯が立たないことを知り、口径の大きな対戦車砲を装備に加えたとか。そんなT34 は、独ソ戦でのソ連反撃の象徴とされたのです。
第二次世界でソ連軍を優位に導いたともいえるT34が主役の映画ですが、ストーリーはドイツのナチス軍に捕虜になったT34 と乗員が、ドイツ軍の演習にかり出されて一計を案じて着々と準備を進め実行に移す、という内容です。本物のT34戦車に俳優たちが実際に乗り込んで操縦、演技したことでも迫真性の高さを評価され、本国ロシアでは観客動員800万人を記録するなど、数々の記録を塗り替えるというメガヒットになりました。
ソ連時代にも制作されていた、戦車T-34を扱った映画
それだけに戦闘シーンの迫力は何度見ても圧巻の砲撃シーンに圧倒されます。特に日本では2019年10月に初公開されたあと、11月にダイナミック版と銘打った長尺版が上映されたりするなど静かな人気を誇っており、その後も限定的に全国でリバイバル上映されています。
なお、1965年のソ連映画で「鬼戦車T34」という作品があり、ドイツ軍の捕虜となった連合国側兵を乗せて標的にされたT34が脱走、ドイツ軍が追い詰めていく、という内容です。展開が似ていますが、リメイクというわけではありません。
T34戦車の映画として同じ戦車が登場するので、半世紀前の作品ながら、見比べてみるのも面白そうです。戦車の映画への登場といえば、日本の特撮の極致と言われる、ゴジラやガメラなどの怪獣映画も、戦車が出てくる映画として外せないのは否定しないでしょう。
5. フランスの名匠トリュフォーが贈る「終電車」
さて、第二次大戦でドイツ軍らと戦ったのは、戦車ばかりではありません。ナチス占領下のパリの人々も、レジスタンス活動を様々な面で助けていたのです。当時のパリは夜間外出禁止令のため、人々は憂さ晴らしの演劇などを見た後、終電車に乗るべく道を急いだことがタイトルとなったフランス映画「終電車(1980年)」も、第二次世界大戦の時代を描いた作品です。
監督はヌーベルバーグの代表的存在だったフランソワ・トリュフォー。「終電車」の日本初公開は1982年です。当時は2番館や3番館などが多く存在し、レンタルビデオショップも多かった時代ですが、フランス本国での大ヒットとは裏腹に、日本では大きな話題になりませんでした。
終電車は、トリュフォー没後30年などの映画祭の影響で再評価
しかし、トリュフォー没後30年と銘打ち、全23の監督作を見られる映画祭が2014年に行われるなど、改めて作品が全国で公開されたことや、2019年に都内の映画館開館100周年記念上映の1本として「終電車」がリバイバル上映されたことなどから、トリュフォーと映画の存在が広まって、作品が再評価されたようです。
出演は、評価の高い作品に数多く出演して一世を風靡し、貫禄をも身に付けたような演技が光る年代に達していたカトリーヌ・ドヌーブ、新進として脚光を浴びていたジェラール・ドパルデューらで、劇中劇と言われる手法が特徴です。
フランスを代表する女優のカトリーヌ・ドヌーブの演技が光る終電車
「終電車」の主役であるドヌーブが見せる様々な顔、つまり、夫を憂う貞淑な妻、劇中劇で若手俳優に対する浮気心、舞台女優として観客に見せるラストの笑顔、という三重構造を指摘し、ドヌーブの演じ分けの見事さを評価する論評もあります。
映画のタイトルになっている終電車は、夜汽車として高台を走り去っていく、という程度にしか出てきません。このため、なぜタイトルになったのか、はっきりしませんが、フランス語の原題「Le Dernier Metro」から推測してみました。邦題は終電車でしたが、英語だと「The Last Metro」。日本語に直訳すれば「最後の地下鉄」という意味になります。
タイトルは、映画のテーマが暗喩的に示されていることもあります。地下鉄を、主役の夫が隠れていた地下とダブらせるとともに、ドイツ軍の占領が終わったことを最終列車としての終電車に重ね合わせて、人々が戦争終結という意味の終電車に乗ろうとする、という意味が、こじつけのようですが、タイトルにあったのかもしれませんね。
5. 夜汽車のタイトルを持つ日本映画は「女の競艶映画」
続いて同じ鉄道関連で、1987年に公開された日本映画「夜汽車」を紹介します。原作は2014年に亡くなった宮尾登美子の短編小説で、映画・夜汽車は、当時としても豪華なキャストが話題となりました。
原作の宮尾登美子の自伝的性格の夜汽車、大女優2人が姉妹役で評判に
特に主演の姉妹を演じる十朱幸代、秋吉久美子の2女優に加え、登場する女優が乳房露出の濡れ場を演じ「女の競艶映画」と評されました。時代背景は1935~45年という第二次世界大戦を含む約10年間です。主演の姉妹は年齢が10歳以上違うという設定で、姉が夜汽車で帰省する際の回想から物語がスタート。
ストーリーは詳しく記しませんが、夜汽車が登場するのはこの回想シーンがメインで、原作の宮尾登美子の境遇を重ね合わせた自伝的内容の濃い作品といえるようです。戦前の話だけに、ヤクザの抗争や芸妓、娼婦として身売りする話が違和感なく語られ、歴史を感じさせるはずです。映画として「夜汽車」の評価は高かったものの、興業的には不興でした。
懐かしの日活ロマンポルノの「夜汽車の女」は姉妹の三角関係を描く
夜汽車という題名が付いた映画は、日活ロマンポルノ華やかなりしころの1972年に公開された「夜汽車の女」という作品もあります。こちらは前出の映画で夜汽車が冒頭シーンで使われたのに対し、後半に夜汽車が登場します。日活の夜汽車の方が制作・公開とも早いのですが、こちらも2姉妹が主人公というのが共通しているものの、男を挟んだ三角関係となった姉妹の愛憎劇です。
姉が夜汽車で逃走し、男が後を追い、妹も男を追って夜汽車に乗る、というシーンに夜汽車がそれぞれ使われています。記憶に残るのは妹が乗る夜汽車に乗り込んでくる瞽女(ごぜ)という女性の盲人芸能者たちと4人の若者。
2018年に海外映画祭で助演男優賞を受けた丹古母鬼馬二の若かりし姿も
カメラマンを演じる若者に丹古母鬼馬二(たんこぼ・きばじ)がいて、若い姿に驚かされます。ちなみに丹古母鬼馬二は、2018年の「第16回モナコ国際映画祭」に正式出品された高杉真宙の主演映画「笑顔の向こうに」で助演男優賞を獲得したとか。芸歴の長さを感じさせますね。
7. ポール・ウォーカーの独壇場、本格アクション「逃走車」
レトロ映画の紹介が続きましたが、最後は正統な車がテーマとなったハラハラドキドキの逃走シーンだらけ、というアクション・サスペンス映画で締めましょう。タイトルは「逃走車」、原題はVehicle 19で2013年に公開されました。主演は映画「ワイルドスピード」シリーズで知られ、同年に交通事故死した故ポール・ウォーカーで、製作総指揮を兼ねています。
南アフリカの最大都市で犯罪に巻き込まれるアメリカ人が車で逃走を続ける
逃走シーンの連続といえる逃走車の物語は、ポール・ウォーカー演じる主人公のマイケルが青いシャツにジーンズというラフな出で立ちで、別れた妻に会いに米国から南アフリカの最大都市ヨハネスブルグに到着、手配したレンタカーに向かうところから始まります。予約した車種と違う車のカギを渡されたことに気づきますが、戻ってカギを交換するのが面倒なため、気にせず車をスタートさせました。
走行中、車内から携帯電話と拳銃を見つけたマイケル、おかしいと思っていると、見つけた携帯電話が鳴りだします。恐る恐る出てみると、間違えた車を交換してほしいという内容。しぶしぶ車交換の指定場所へ行く途中、今度は車内後部で縛られた女性を見つけます。
警察上層部の組織犯罪をあばく女性検事を助けようと逃走に次ぐ逃走
レイチェルと名乗った女性は検事で、警察の組織犯罪をあばこうとしていて、腐敗した警察上層部に殺されそうになっていると話したのです。別れた妻も危険になると考えたマイケルは、レイチェルの頼みを聞かず、車の交換指定場所へ向かったところ、突然発砲されます。事態の重要さに気づいたマイケル、慌てて逃走を始めますが…。
このあたりから自分が指名手配されていることに気づいたマイケルが、逃走に次ぐ逃走という感じで話が進んで行き、ドライビングテクニックを駆使して逃走し続けるというお話で、クライマックスへ突入します。
全編、車内からの映像という実験的な映画「逃走車」
全編、車載カメラをはじめとした車内からの映像という実験的な試みの「逃走車」、映画を見ている観客らの目ともなるような逃走の撮り方のため臨場感があるうえ、自身のことのような身近な逃走感覚があるのが特徴です。撮影が行われたのは南アフリカで、出演俳優もポール・ウォーカー以外は南アフリカの俳優が起用されました。
やや演技が過剰な気がしたポール・ウォーカーは、強引かもしれませんが、スティーブ・マックイーン的な雰囲気、側面を感じられる貴重なアメリカ俳優でしたので、「逃走車」公開後に亡くなったのは残念です。
最後に
映画のタイトルに使われる「車」7選、として作品と制作背景、感想などをまとめました。映画ファン、車ファンの方には怒られるかもしれませんが、それぞれ意外?な作品の紹介となりました。車の映画というと、犯罪がらみだったり、逃亡に乗用車などが使われたり、といったシーンがオーソドックスですが、タイトルに「車」と使われはしたものの、比喩的、暗喩的な意味が込められており、映画を一見しただけでは作者の意図するところを理解するのは難しい作品もあります。各作品はDVDで見られるほかアマゾンプライムなどでも見られるようです。興味のある方はぜひ時間を作って「車」の映画を見比べるのも楽しいことでしょう。
コメントを残す